対談「組織コンサルタントから、田村ビルズはどう見えているのか?」(後編)

前編では田村ビルズグループにフィロソフィが導入された背景、そしてフィロソフィが柔軟な変化対応の肝だったという事実が明らかになりました。後編では、当社がフィロソフィを使って組織をどうマネジメントしているのか、具体例を挙げて明らかにしていきます。

坂東 孝浩さん

株式会社ブレスカンパニー 代表取締役社長/手放す経営ラボラトリー所長早稲田大学卒業後、スタートアップから大企業まで、あらゆる組織課題の解決に携わってきた。その数800社以上。お会いした経営者は4000人を超える。
2011年に株式会社ブレスカンパニーを設立。そして2018年に手放す経営ラボラトリーを設立。
「管理しない経営」「誰もが意思決定できる組織」「給与は話し合って決める」「理念も事業計画もない」など最先端の組織や経営スタイルを研究。進化型組織のリサーチ数では日本屈指。
経営を進化させるプログラム「DXO(ディクソー)」を開発。全国の企業への導入支援を行っている。
また自社でも“手放す経営”を実践。勤怠管理やマネジメントを手放し、経営権も分散化するなど、身体を張った実証実験を行っている。
神奈川県出身、現在は福岡と横浜の二拠点生活。

対談の動画はこちら(全5回)

誰も見ていなくても、お天道様が見ているから。

坂東:とても順調に成長しているように見えますが、課題はあるんですか?

田村:常にありますよ。会社の課題について話しはじめたら、1時間じゃ足りないくらい。

坂東:なるほど、そんなに不安があるんですね(笑) 私は、一般的に組織のマネジメント機能は「不安」や「恐れ」から生まれると思っていて。従業員がちゃんと働くか不安だから「コントロールしよう」とか「管理を強めよう」という意識ですね。でも、田村社長は不安だらけのはずなのに、管理を強化しているようには見えません。

田村:管理しようとは思っていないですね。僕が気を付けているのはすべてを「オン・ザ・テーブル」にしようということ。

坂東:なるほど!テーブルの下で隠れてモノを言うのはやめようぜ、ということですね。

田村:そうです、すべてオン・ザ・テーブルで話すんです。そうすれば社員のみんなにも共有できるじゃないですか。僕一人の力なんて大したことないけど、衆知を結集すれば良いアイデアは生まれてくる。隠れてこそこそやられたら、マイナスにしかならないですから。そして、実はそうした場面でもフィロソフィがガバナンスを効かせているんです。

坂東:フィロソフィが?どういうことですか?

田村:社員を管理する項目って挙げだしたらきりがないですよね。時間で管理するとか行動管理とか。でも、最終的には「誰も見ていないところでどうするのか」が問われると思うんです。ズルをするのか、しないのか。ズルしそうな誰かを見て注意するのか、しないのか。それこそ、フィロソフィがガバナンスを効かせるポイントです。

坂東:なるほど。ルールやシステムで縛るのではなく、フィロソフィで縛る、と。

田村:そういうことです。僕の好きな稲盛さんの言葉に「人を見るな、天を見よ」「人に聞くな、天に聞け」というものがあって。社内でもよく言うんです。

坂東:お天道様が見てるぞ、と?

田村:そうです。誰も見ていなくても、お天道様が見ている。弱い自分に負けそうなとき、「まあいいか」と妥協しそうになるとき、もちろん僕にもたくさんあります。その10回のうち1回だけでも、「お天道様が見てるんだから、ここは頑張らんといかんな」と踏みとどまれる自分でありたい。翌年、それが2回に増えたら立派な成長だと思う。それで十分だと思うんです。

坂東:子供のころ、親から言われましたよね。「お天道様が見てるんだからね」って。

田村:結局、大事なのはそういうことなんだろうなと思います。

坂東:つまりフィロソフィがガバナンスを効かせるというのは、生き方、考え方、道徳心、倫理観、思いやりの気持ちで、自分自身や会社を統治していこうということなんですね。

田村:そうです。ビジネスパーソンにとってお客様や仲間から信頼を得るために必要なのはスキルや仕事の作法以前に、「人としてどうなのか」という部分だと思っています。

社長も部長も課長も店長も、みんな大したことないよね。

坂東:若い社員がすごく増えましたが、社長にとっても刺激になっていますか?

田村:もちろんなっていますよ。今最年長が72歳で、最年少は18歳の子がいます。

坂東:18歳?!すごいですね。

田村:そして、18歳から72歳まで全員が相手のことを「さん付け」で呼ぶことにしているんです。それがまたうちらしい社風をつくってくれていると思います。

坂東:どうしてそんなルールにしたんですか?

田村:年齢が高い人も経験豊富なベテランも役職がついている人も、要はみんな「大したことないよね」ということです。それなのに、店長、部長、工場長、社長なんて役職で呼ばれるとどうしても勘違いしはじめるんですよ。

坂東:わかります。

田村:自分は仕事ができるとか、偉いとか、人として上だとか。全然そんなことないのに。すると組織は少しずつおかしくなっていく。パワハラやセクハラも起きやすくなります。一般的な価値観では、10歳も20歳も年下の後輩を「さん付け」で呼ぶのは違和感あると思うんですけど、その違和感が「いやいや、お前も大したことないよ」と自覚させてくれるんです。

坂東:なるほど。

田村:以前はけっこうでたらめでしたよ。役職者は役職で呼ばれるのに、若手はあだ名で呼ばれたり、ちゃん付けだったり。でも、若手が役職者をあだ名で呼ぶなんてことないですよね。

坂東:そうですね。

田村:それって、正直ちょっとおかしいと思いませんか。だったら全員さん付けだったらいいじゃないか、と。当然僕もさん付けで呼んでもらっていたんですが、でも3か月くらい経つと誰も僕の名前を呼ばなくなってしまったんですよね。「あのぉ……、そのぉ……」みたいな。

坂東:はっはっは!相当言いづらかったんでしょうね。

田村:「社長だけは社長で勘弁してくれ」って言われました。まだ誰も「田村さん」とは呼んでくれないですね(笑)

坂東:面白いですね。でも、さん付けのフラットな関係づくりって私もすごく大事だと思っていて。組織の中に階層はあっていいと思うんですが、関係性はできるだけフラットな方がいい。その方が、ベテランも若手も含めて全員が忌憚のない意見を言い合えるから。「部長がいるし変なこと言えないな」とか「後輩の前で恥ずかしいアイデアは出せないな」とか、そうした気負いや遠慮って、議論するときはめちゃくちゃ邪魔じゃないですか。

田村:確かにそうですね。

坂東:だから、社内でフラットな関係性を築くことはとても重要で、そのときに「さん付け」で呼び合うというのはとても有効な手段だと思います。私は、未だに役職で呼び合っている会社は、組織のOSのバージョンが古いままだと思うんです。昔ながらの体制やスピード感では、うまく時流に適応させて組織を変化させていくことはできない。

田村:さん付けで呼び合うというのは、本当にちょっとしたことなんですけど、いきなりやろうとするとけっこう難しい。そうした細かいことの積み重ねが会社の文化をつくっていくんだと思います。

坂東:やっぱり、すぐには浸透しなかったですか?

田村:役職者やベテランは苦労していましたね。しばらくの間、あだ名で呼びかける声が聞こえたときには、走って注意しに行ってましたから。「さん付けって決めただろ」みたいな(笑)

会社を大きくするために、九州に進出するわけじゃない。

坂東:最後に、これからの田村ビルズの未来について話していきたいんですが。やっぱり鍵になるのは九州への進出ですか?

田村:そうですね。特に福岡の久留米に進出したのが、大きなターニングポイントになったと思います。最初熊本に出店して、福岡にもう1店舗出したことで、九州という大きなマーケットが現実的なものとして身近に感じられるようになりました。九州全土に進出するとなると、将来構想も大きく変わってきますが、チャレンジしてみたい。今はそう考えています。

坂東:そうなると、会社の経営もさらにアップデートしていく必要がありますね。

田村:当然そうなります。ただ、勘違いしないでほしいのが「会社を大きくしよう」とか「九州をガンガン攻めよう!」という想いで進めているわけではないということ。うちの経営理念である「全従業員の物心両面の幸福の追求」に資すると判断したから、九州での事業拡大を進めているんです。

坂東:大きくすることが目的じゃないと。

田村:そうです。拡大は目的ではなく、目的を追求した結果なんです。もし仮に我々に力があるのなら、物心両面で幸福を感じられる社員の数をもっと増やしていきたいですし、九州全体に我々のフィロソフィの共感者を増やしていきたい。それがイコール、出店数を増やし、エリアを拡大し、会社の規模を大きくすることにつながっていくんだと思います。

坂東:なるほど。ワクワクしてきました。これからの会社の成長も楽しみにしています。ありがとうございました!
田村:こちらこそ、ありがとうございました。

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