哲学者の小川仁志さんに聞く。

Riko Shigefuji/重藤 理子



2022年12月のLFB RADIOのゲストにお越しいただいた、哲学者の小川仁志 (おがわひとし)さん。京都大学法学部を卒業後、商社マン、フリーター、市役所勤務という異色の経歴をもつ哲学者であり、現在は山口大学・国際総合科学部教授として、教壇に立ちながらNHK Eテレの哲学番組などのメディアに多く出演されていらっしゃいます。さらに、市民参加型の「哲学カフェ」を通じた哲学の普及活動をライフワークとして行っていらっしゃる小川さん。ラジオにご出演いただいた後、インタビューにお付き合いいただき、小川さんの活動についてお聞きしました。


哲学との出会い

左から田村社長、小川仁志さん、枡田絵理奈さん、広報岡野裕太

――――哲学と出会われたのは何歳くらいでしょうか。

小川仁志さん:「30歳くらいですね。普通、大学の先生で哲学を教えているといったら、遅くとも大学1年生の頃から哲学科にいって、ずっと勉強していると思われるのですが、私は違いましたね。30歳くらいの時に初めて出会ったんです。それまでは無縁でした。難しいことが苦手で遊ぶのが大好きだったので(笑)


大学卒業後は、かっこいいっていう理由が一番で、総合商社に就職しました。私は、みんなが良いって言ったものをずっと信じて生きてきたんです。実は、そこが崩れたのがきっかけで哲学に出会うことになったんです」


――――哲学と出会う前の小川さんは、どんな幼少期を過ごされたのでしょうか。夢はありましたか?

小川仁志さん:「幼少期は関西にいたので、吉本の芸人さんになりたかったですね。とっても陽気な子供でした(笑)


ただ、周りからは『勉強を一生懸命にすればいい事があるから』と言われて、私はみんなが良いと思ったものを信じるタイプだったので、高校3年間は部活動もせずにめちゃくちゃ我慢して勉強していました。


それで結局、会社に入って挫折するんです。本当にやりたかったことはこれかな?と思い出して…。20代の真ん中くらいで会社を辞めちゃうんです。そこから挫折の連続で、悩んでいましたね。なので、それからは、みんながいいっていう方ではなくて、自分にしっくりくるものはないかな、と考えるようになりました。そこで『哲学』に出会ったんです。哲学だけは、『疑ったら幸せになれる』という今までとは逆のことが書いてあったんです。今までは『信じたら幸せになれる』でしたから」


――――哲学にはどのようにして出会ったのでしょうか。

小川仁志さん:「図書館ですね。自分が行き詰ってしまって、何とかしないといけない、そして何か自分を救ってくれるものはないかと、色々探し出したんです。その時にたまたま、『哲学の入門書』を見つけて、ここに『疑えば幸せになれる』って書いてあって、惹かれました。


『哲学の入門書』っていうのは重要で、最初はやはり簡単でないと手に取らないし、読まないと思うんです。それが今の私の活動につながっているんですけど、哲学をできるだけ簡単に、面白くしようと思っていますね。


哲学ってすごく良いこと言っているんですが、言葉が難しかったり、印象が少し悪かったりするので、そこだけはまず変えようと思いましたね。今はこのキャラクターを活かしながらやっている感じです(笑)」


小川さんの活動とその思い

―――――自分が勉強するだけではなくて、人々に広めたいという思いになったのはなぜでしょうか。

小川仁志さん:「自分が救われたからです。世の中には、みんなが良いって言っていることを信じて幸せになれる人もいると思うのですが、私みたいにそうじゃなくなってしまった人には、何かが必要だと思うんです。


哲学というのは真逆で、自分で疑って考えて、納得いく答えを見つけていくという勉強なんです。ただそれは、分かりやすいテキストがあったり、優しく教えてくれたりする人がいないと自分じゃ難しいんですね。だから恩返しのつもりで、簡単に面白く広めていこうという思いがありますし、また何より最初に会社を辞めたのも、世の中にもっと直接的に役に立ちたいというのがあったからなんです」


――――哲学をいろんな方に広めようと、「アカデミーハウス」でも活動されている小川さん。アカデミーハウスでの活動はどのようなものなのでしょうか。

小川仁志さん:「非常に珍しい取り組みで、人材育成になります。社会人や学生が、仕事や学校を終えて、夜勉強することはあると思うのですが、ここはそういう思いのある人たちが、同じ場所に1年間一緒に住んで、勉強していくんです。また、勉強だけではなくて、それを活かして社会課題を解決するというのをやっています。よく言われる『PBL』(Project Based Learning)という教育になるんですが、社会課題の解決を住み込みで、年齢や立場を越えてグループになってやっています。


しかも更に面白いのは、社会課題を哲学ベースでやるということです。先程お話したように、疑って、そもそもどうなんだろうというところまで考えてやるんです。私は哲学というのは物の考え方だと思っているので、最初は少し勉強してもらいますけど、とにかくそれを使わないと意味がないんですよね。知識として覚えて自己満足じゃ意味がないので、どんどん疑って、どんな見方ができるかな、と考えるようにしてもらっています」


あなたの人生に哲学を!

――――哲学を「使えるツールにする」のがモットーの小川さんですが、哲学は人生相談に向いているツールのでしょうか。

小川仁志さん:「向いていると思いますね。そもそも悩んでいる人っていうのは、どっちの方向にいったらいいか分からないという感じになっていると思うのですが、哲学はそこを上手く切り拓いてくれるので、向いているんじゃないかと思います。


ビジネスや教育、対人関係など、どんなジャンルでも大丈夫です。哲学がいいのは、何でも対象にできるということなんです。元々、哲学はあらゆる学問の根本にあったものですからね」


――――「チャレンジ」について。失敗を恐れてしまう方もいると思うのですが、どうしたらチャレンジできるようになるのでしょうか。

小川仁志さん:「『試考力』というのが私は重要だと思っています。これは私の造語です。


まずやってみるという『試行』はよく言われますよね。ただ、その前によく考える必要があると思うんです。よく考えて、考えた結果やらないじゃなくて、よく考えて試してみたらいいんじゃないかと思います。今、考えずに試してみる人がいるんですけど、そうすると失敗してしまって、チャレンジが恐いってなっちゃうんです。しっかり考えて試してみると、失敗の率も少なくなりますから、チャレンジするのが恐くなくなるんですよね。そういう意味でも試しに考えてみる『試考力』が必要であると思います。


それが実は、サルトルというフランスの哲学者の『実存主義』に基づいているんですね。これは、簡単にいうと、人生は自分で切り拓いていける、社会や自分は変えていける、というめちゃくちゃポジティブなチャレンジ思想なんです。


その背景に何があるのかな、と私は考えて、さっきの『試考力』というのを生み出したんですけど、サルトルも色んな行動をするときに、物凄く深く考えた上で大胆にチャレンジしていたんじゃないかと思うんです。だから、チャレンジする人、チャレンジが少し恐いなと思う人は、ぜひ試考してみてください。そうすればきっと上手くいくと思います」


――――最後に、この記事をご覧になられている皆様にメッセージをお願いいたします。

小川仁志さん:「サルトルの『実存は本質に先立つ』。この言葉を送りたいですね。


実存というのは、自分が今生きているこの感じです。本質というのは、決まっていること、決められていること(運命)です。自分が今生きているということが、本質(決められたこと)よりも先立つということなので、必ずそっち(実存)のほうが優先するということです。


決まっているし仕方ない、という風に思うんじゃなくて、どんな困難があったとしても、あるいは選択をしないといけない状況があったとしても、常に優先するのは今の自分、今の自分の気持ちとか、やりたいこととか、そっちを優先していくというのが、最高の哲学の一つです。ぜひ信じていただいて、『実存は本質に先立つ』という生き方をして頂けると、上手くいくんじゃないでしょうか」


Epilogue


いかがでしたでしょうか。哲学というと難しい印象があった方もいらっしゃると思うのですが、小川さんの分かりやすいお話を受けて、哲学は身近なものなんだと私自身再認識することができました。小川さんの「哲学カフェ」をぜひ、今回ラジオを収録したショクバカフェで開催できたらとても嬉しいですね。またお会いできるのが楽しみです。ありがとうございました。小川さんのYouTubeチャンネルでは、今回お話いただいたようなお悩みに対する哲学のお話もたくさん配信されています。ぜひご覧ください。

小川仁志さんホームページ
YouTube:小川仁志の哲学チャンネル

■小川仁志さんメディア情報
最新書籍:『日本の思想家入門(角川新書)』『身の回りを哲学する(あさ出版)』
出演テレビ情報:TYSテレビ山口『mix』毎週月曜日コメンテーター
FBS『めんたいワイド』基本第4水曜
テレ朝『羽鳥慎一モーニングショー』不定期出演
Eテレの哲学番組『ロッチと子羊』毎週木曜日夜8:00~



作者プロフィール

田村ビルズグループ 広報
重藤 理子 Riko Shigefuji
山口県宇部市生まれ。生まれも育ちも山口県で、音楽と地元への愛が強いです。地元の音楽フェスには学生の時から毎年参戦。2019年に新卒で田村ビルズに入社し、現在は広報として地元+九州へ田村ビルズグループ内の出来事を日々発信中。

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